千一
(5mmほどネタバレ含む)
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顔合わせは、レンタルオフィスで行われた。
頗る晴天で、その太陽を乱反射している長い坂は、仕事終わりの私にはキツかった。
だが心は躍る。
アンバランスな気持ちになりながら、オフィスの机を畳む。
床には怪しい染みが散乱している、小ぢんまりとした一室で、稽古スタート。
即戦力を集めてる現場のスピードは二倍速である。
二日目くらいで台本を手放そうとしている皆さんを見て、わしゃ絶句である。
私はよく自己懐疑に陥る。
それを吹き去るほど、この現場は居心地がいい。
夜航船シリーズの本は大体難解になっているが、今回のは、本来科研費を取るためにスタートした研究の一環として作り始めたもので、尚更。
しかし、キャストさんの読解力が高くて、いいスタートを切れた。
台本上のある固有名詞にスペルミスがあってお伝えしたら、既に調べて直したよと返事をいただいた瞬間、
ビジュアル撮影で初対面の時、趙氏孤児のドラマを観てるんですよと話してくれた瞬間、
メイクさんが、「ここのこの人はOO歳のこの人であってます?」と台本を細かく読んで聞いてきた瞬間、
「あ、創作の場でこういう関係性が欲しかった。」と、うるっときた。
作品に、役に、好奇心を抱くキャスト/スタッフは、私にとって、最高の救い。
小劇場でやっているこの団体は、部活に近い空気感で稽古に臨むことが多い。
タタキもできないし、小道具も揃っていないまま、立ち稽古に入る。
なのに誰も何も疑問を持たずに、ひたすら作品と向き合ってくれた。
尊敬する。
そして何より、力をいただく。
休憩の時外に出ると、休憩中にもかかわらず、秋風に当たりながら、ぶつぶつと台詞を言い合ってる鐘ヶ江さんと川井さんに出会う。
そして稽古場に戻って待機していたら、ドアから入る増田さんが「おう」と急に声を上げると、そこに座ってる鐘ヶ江さんがすぐに「アーサー」とその呼び掛けに答える。
アベカミこと大樹と彩野さんには、作中のとある情景の対照的存在であり、作品構成的に浮くシーンをお願いしている。感情の運びが難しいであろう台詞の数々に悩む姿がとてもプロだった。
アンダースタディーのこうよう、頼りにしかならない男、いや、漢。初日から、代役のお願いで無茶振りを繰り返すが、全てうまくやってくれる。私の演技の仕方が似てるからかもしれないが、すごく通じ合って、無駄の時間がない。
何より、全員が、私の考えてること、出してる指示に、100%の理解と120%のフィードバックをくれてる。
これが初日であり、毎日でもある。
感無量。
小屋入りまで二週間、小道具が入った。
喜劇のようなマッサージガンとボールペンの戦いが終わり、鉄砲と剣が向き合う。
これから、作り上げていく、走り抜けていく。
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